「経営人事改革の視点」 2016年10月号 賃金水準は高い方がいい

賃金水準の求め方

社員に対してどの程度の水準の賃金を支払うべきか、これは経営者がもっとも悩むところです。

〇〇式賃金制度、◇◇式賃金制度等々、賃金制度には様々なシステムがありますが、どのような人にいくら払うべきと理論だけで導き出す方法論は世の中に存在しません。

賃金は社員にとっては高いに越したことはありませんが、企業の支払い能力を超えて支払うことはできません。ここにまず一つの絶対的な制約が存在します。この制約は総人件費に関するものです。

一方、その制約の中で、ある役割(等級)に対して最低でもいくらくらい支払いたい、最高でもいくらまでしか払えないあるいは払いたくないという意思(経営判断)が存在します。賃金体系の構築は、この意思・経営判断がより所となります。その「いくらくらい」というのは、年収で判断するのが適切です。その年収とは賞与や各種手当てを含んだものになります。

つまり、賃金水準の求め方の第一歩は、年収から逆算した払える金額/払いたい金額、つまり、「企業の支払い能力と支払い意思」ということになります。しかしこの判断は、それほど簡単ではありません。いくつかの参考指標や比較の観点が必要になります。

外的公平性・内的公平性

賃金水準は、企業の内部の都合だけで決定することはできません。人材の確保・定着に関しては他の企業との競争にさらされており、有能な人材ほど他社へ流出してしまう可能性があるからです。そのため、賃金制度の設計にあたっては、世間水準との比較を行う必要があります。

世間水準との比較というのは、実は簡単ではありません。比較的小規模な企業も含んだ全国で使える統計データとしては、厚生労働省が毎年行っている「賃金構造基本統計調査」(賃金センサス)がほとんど唯一のものといえます。

公平性は、外部採用・転職市場の観点も重要ですが、組織内部の公平性が重要なポイントになります。不公平感は、外部との比較よりも、内部の公平性に関して生まれやすいものだからです。少額であっても、「なんで私の賃金があの人より低いの?」という不満は、時に強烈なものになります。

一方で、個別の賃金は過去の昇給を含んだものになるので、その瞬間における比較では、同じ役割を果たしていても、同一賃金にはなりにくいものです。同じ役割(等級)に対して、下限・上限を決めること、そして昇給ルールを明確にして公表することにより、説明責任を果たすことが重要です。

賃金水準を引き上げる方向

人件費の絶対的な制約について述べましたが、その制約を引き上げる努力を行い、賃金はできるだけ高く設定したいものです。今の時代、コストカットだけで生き残っていくことは難しく、やる気のある人材が高い付加価値を生み出す職務行動をとることが有力な成功の道だからです。

生産性を上げて、高い賃金を支払うこと、それもべらぼうに高くする必要はなく、世間水準よりもやや高め、あるいは現状よりも1割高い水準を目指すのが現実的な目標になります。生産性は、2割、3割の向上を目指していく必要があります。それを行うことで、人件費を上げていっても、最終的な利益はむしろ拡大させるのです。

逆に、人件費を1割引き下げたところで、価値を生み出さなければ全くペイしません。価値を生まない人件費は、コストとしては高すぎるのです。

生産性向上のポイントは、時間効率を上げることです。特にホワイトカラーの生産性は、日本において非常に低く、改善の余地が大いにあります。時間効率を上げることは、言葉を換えれば、仕事のリードタイムを短くすることであり、そのポイントは業務処理時間だけでなく、意思決定の時間を短くしていくことです。この点において、経営者の役割が非常に大きくなります。

本気で生産性向上に取り組み、人件費を1割向上させても利益を現状よりも増大させ、さらに人的パワーを増していくという善循環を実現する必要があります。

以上