「経営人事改革の視点」 2016年6月号 賃金の決め方

賃金による社員のコントロール

人件費は、企業が支払うコストのうちで最大のものの一つです。他のコストは、購入先から相見積もりを取るなどして、適正化を図ることが可能です。しかし、賃金はそういうわけには行きません。法的な規制があるのはもちろんですが、人間は経営者の思い通りには決してならないからです。命令や賃金の決定という機能を使ってコントロール可能と考えてしまうと、それは大きな間違いです。表面上は従うふりをしても、面従腹背という言葉どおりの結果を招きます。まずは、このことを肝に銘ずべきです。

しかし、賃金を「適当に」決めるわけにはいきません。何らかの方法で「合理的に」決定する必要があります。賃金決定の合理性にはいろいろな尺度があります。

かつては、年功が重視されました。賃金にも、年齢給や勤続給の設定があることがめずらしくなく、年とともに賃金は上昇しました。能力も有力な物差しの一つで、能力給は、年齢給などとの組み合わせで、大企業を中心に広く採用されていました。しかし、目に見えない能力を物差しとした能力給の運用は、次第に年功給化していきます。

それに対する反省から、1990年代より成果主義賃金が広がりましたが、その副作用も大きく、次第にどの程度役割を果たしたかを定量的・定性的に確認していく役割給が増えつつあります。役割給で行えば、物事はすべてうまくいくかというと、残念ながらそうとは限りません。人間が人間を評価することの難しさと、労働価値の金銭評価に係る方法論は、ある面で公平であれば、別の面で不公平さを生むという矛盾を内在しているからです。

サイボウズの取り組み

グループウェアの開発・運営を行うサイボウズという有名な企業があります。サイボウズの人事制度や賃金制度への取り組みは、トライ・アンド・エラーの連続だったようですが、その失敗を含めて経営者の著書に詳しく書かれており、他企業の参考になります。

創業当初は、当然中途採用で人材を集めたので、前職での給与が基準でしたが、その後、ベンチャー企業らしく「完全なる成果主義」を目指し、目標達成度を全面的に反映した給与決定の仕組みを導入しました。目標管理の欠点は、目標設定の度合いの公平性を確保することが至難の業であるということです。そこで、目標管理に加えて社内投票による加点などを取り入れましたが、結局、誰も納得する仕組みにはならなかったということです。

サイボウズが最終的に行き着いたのは、「完全なる公平というものはなく、給与は結局のところざっくり決めるしかない。大事なのは公平性ではなく、メンバーがミッションに向かって毎日楽しく働くことである。」という割り切りです。しかし、何らかの方法で給与を決めなければなりません。それを判断するのが「市場性」基準です。「その人材が転職するとしたら、給与がいくらになるか」という予測です。

都会のベンチャー企業であれば、中途採用の応募者と日常的に面接を行っており、また、人材紹介会社のセールスとのコンタクトも多いので、世間相場がつかみやすいという事情もあります。そうした場合、市場性基準は一つの有力な手法でしょう。

しかし、転職が一般的でない地方企業においては、こうした基準で給与を決定するのは至難の業です。やはり、働きぶりを評価して、それによって一定のルールに従って昇給を行う賃金制度などを採用せざるを得ないと考えられます。

重要なことは、賃金決定は共有された一定のルールに従って行うこと、そして賃金決定のルールとは別に、仕事のやりがい・モチベーションを確保すること、様々な制約条件に対応した柔軟な働き方のルール設定を行うこと、などを担保することです。

働きやすい職場であって、仕事のやりがいもあること、そして賃金の決定には全面的に満足できなくても、ある程度の納得感が得られること、そうした状態を最低でも実現することが、企業が成長していくための前提条件であると考えられます。

以上