「経営人事改革の視点」 経営理念が機能しない理由

◆経営理念と役割モデル

経営理念を掲げる企業は少なくありません。企業理念、社是、社訓などと表現されることもあります。中核となる理念だけでなく社員の行動指針などを同時に定義するケースもあります。それらは企業が大切にしたい重要コンセプトを表したものです。

さまざまな内容がありますが、ここではそれらをすべて理念と呼ぶこととします。

トヨタ自動車には、ジャストインタイム、カイゼン、ムダ取りなどの理念があり、それらを統括するものがトヨタ生産方式という理念体系です。そして、この理念に対応する象徴的な行動があり、それはOJTや座学などを通じて習得され、広がっていきます。

京セラのアメーバ経営という理念も広く知られています。JALの経営再建もこの手法により行われましたが、組織を少人数の部門(アメーバ)に分けて、アメーバごとの創意工夫と採算管理を徹底する独特の経営手法です。

こうした理念は、まさに現実に機能する理念です。実際に機能する理念に共通するものは何かを考えると、その理念を体言する「役割モデル」の存在があります。

トヨタ自動車では、元祖役割モデルは、トヨタ自動車工業の元副社長大野耐一氏でしょうし、アメーバ経営の場合は、京セラ創始者の稲盛和夫氏が強力な役割モデルとなっています。

古いところでは、サントリー創業者の鳥井信治郎が発した「やってみなはれ」、ソニー創業者井深大の「自由闊達にして愉快なる理想工場」などは、創造性やチャレンジングな行動を導く理念です。

大きく成功している理念に共通するものとして、教祖的な役割モデルの存在があげられますが、実はそれだけでなく、その薫陶を受けた多数のミニ役割モデルの存在が見えてきます。身近なところに、その理念を体現する多様な人材がいてこそ、組織全体にその理念が広がっていくのです。逆に、役割モデルが存在しなければ、その理念は決して広がっていきません。

 

◆理念は行動の模倣によって広がる

理念が導くべきものは「行動」ですが、行動は単に言葉によって導かれるものではありません。行動を導くものは、他者の行動そのものです。他者の行動に共感した場合、人間はその行動を模倣しようとします。人間の模倣能力は生得的なもので、生後間もない赤ん坊が大人の表情を真似る「新生児模倣」が知られています。

人間の模倣能力は強力です。その能力こそが、人間を地球の中で特別な存在にしたと考えられています。

人間は強力な模倣能力を持ちますが、模倣が行えない場合があります。

一つは、「その行動が存在しない場合」です。当たり前ですが、ないものを模倣することはできません。そして、もう一つが、その行動に共感できない場合です。そのケースも、模倣メカニズムは働かないのです。

トヨタ自動車におけるカイゼン活動、京セラにおけるアメーバ経営の活動も、現場においてそうした行動を行う社員は、他の社員の共感を得たに違いありません。そして彼らはきっとカッコよかったはずです。

理念を体現する社員の行動を見て、「カッコいい」と思う共感が生まれ、そのカッコよさを真似てみようという本能的なメカニズムが働き出す。それが、理念が現実のものとして広がっていくプロセスなのです。

理念は絶対に必要です。理念がなければ、価値の具現化が始まりません。しかし、理念だけを掲げても、現実は変わっていかないのです。それを体現する役割モデルが必要で、多くの中業企業では、その主役は経営者が担っています。

経営者は、役割モデルとして機能することを求められます。経営者は、理念を自身の行動によって体現する存在です。そのことを常に意識する必要があります。

以上