「経営人事改革の視点」 組織の機能を高めるために必要なこと

◆人間は忖度する生き物

忖度(そんたく)という言葉をよく耳にします。「相手の気持ちをおしはかること。推察。」(大辞林)という意味ですが、最近では官僚などが権力者の気持ちをおしはかって、その意に沿うような行動を取ることへの批判として使われる場面が増えています。

忖度は人間にしか行えない高い思考能力の一部です。

Aはこうしたい。Bは「Aはこうしたい」と思う。Aは『Bが「Aはこうしたい」と思っている』と思う。などというように、人間は相手がどう考えているかの推察を重ねていくことができます。これこそが、人間が数百万年の歴史の中で集団を形成して協力関係を築き生き抜くことを可能にした能力なのです。

また、人間は基本的にリーダーや上位者に従う生き物です。これも集団形成本能の一部で、心の自然な動きとして「自ら従う」のです。従うマインドの方が先にあるので、指示や命令がない状態では、それを探そうとします。それがまさに忖度です。

 

◆機能集団としての企業

企業は機能集団です。複数の人間が集まり、分業を進めていきます。企業にとって必要なさまざまな機能を明確にして、それを人材の役割に落としていくことが分業です。その機能分担、役割分担がうまくいくかどうか、つまり分業がうまくいくかどうかが企業成功の成否を分けます。

もう一つの重要なポイントは、人材が十分に力を発揮できるか、企業内で成長できるかどうかです。一人ひとりが個性を活かし、のびのびと能力を発揮したときのパワーは極めて大きいですが、細かいことで手足を縛るマイクロマネジメントが行われたり、やたらと忖度が要求されたりするような職場だと、人間の活力は削がれてしまいます。

機能分担、役割分担が明確でないと、忖度が必要になるという側面もあります。やるべきことが明確で、役割分担にともなう業務や情報の受け渡し方がはっきりしている場合は、迷いは生じません。ところが日本型の組織では、機能・役割の定義があいまいで、そのため属人的に仕事を進めざるを得ないことが多く、その結果、公式的には報連相、その内実は忖度が求められるのです。

属人的な組織では、えてしてインフォーマルな組織が形成されてフォーマルな機能が妨げられることがあります。インフォーマルな組織の形成は人間の集団形成本能によるもので、その中で上下関係が生まれることもあります。それは、いわゆるマウンティングの結果のこともありますが、パワーバランスで上回る人間に対して、自ら従ってしまう心の動きによることも多いと考えられます。当事者間でのみ通用する暗黙のルールが設定されてしまうこともあり、お局さん問題などはこのような現象の典型的な表れです。

人間関係におけるこうしたノイズが発生した場合、組織の機能は必ず低下します。それを避けるためには、基本的には組織の機能分担・役割分担のあり方を明確にし、気兼ねなく合理的に業務が遂行できる状態をつくることです。忖度は人間の高度な能力ですが、それが常時必要となるような組織では、大きな成功はおぼつかないと考えるべきです。

もう一つは、モラルを維持するために、絶対に守るべき組織のシンプルで少数のルールを設定して、その徹底を図ることです。それ以外については、人がのびのびと働けるようできるだけ自由度を増やす必要があります。

人間の集団形成本能は強力なので、油断するとインフォーマルな組織が形成されてしまいます。それに上書きされないよう、フォーマルな組織の機能を向上させ、ノイズの入りこむ余地をなくす取り組みを継続的に行うことが求められます。

以上