「経営人事改革の視点」 2018年10月号 社員は経営者の本心を見抜く

経営者が実現したいもの

競争環境の中で実績をあげている企業経営者のほとんどは、何かを実現したくて、あるいは何かを手に入れたくて経営を行っています。その内容は人によって様々で、「良い製品を作りたい」、「良いサービスを実現したい」という教科書的なものや、「売上高を3倍にしたい」、「株式公開を果たしたい」といった野心的なものもあります。

創業経営者であれば、「成功して皆を見返したい」といった感情を持つこともめずらしくないでしょうし、創業者に限らず「ブランド物を身につけていい暮らしがしたい」、「異性にもてたい」などといった人間的な欲求もあるでしょう。逆に、サラリーマン社長などで「自分は大過なく過ごしたい、リスクは取りたくない」という本音を持つこともあるかもしれません。何かを得ようとする動機は一つとは限らず、いくつかの内容が組み合わさるケースもあります。

さて、いずれの場合でも、経営者は実現したいこと手に入れたいものが実現しつつあるかどうかについての「手がかり」に敏感に反応します。経営数値を見るなりして、自分の思うように事業が進んでいることが確認できれば機嫌が良くなるわけですし、そうではない兆候・手がかりを見つけた場合は、不機嫌になったり関係する社員を叱責したりすることもあります。

集団に所属する成員つまり社員は、経営者つまり集団トップの言動に非常に敏感です。それは数百万年にわたって集団を形成して生き抜いてきた人間に備わった本能なので、個人差はあっても必ず集団のリーダーを注視する傾向を持っています。

社員は皆、経営者を実によく見ているのですが、それも経営者の上辺の言葉ではなく、感情を伴った発言や行動そのものを注視し、本心を見抜くのです。繰り返しますが、これは人間の本能なので、社員が見ようという明確な意図を持たなくても見ているのです。

一方、経営者自身が自分の本心に気付いていないことは、決してめずらしいことではありません。その場合、経営における重大なギャップが生まれることがあります。

ダブルバインドが社員の消極性を生む

「大過なく過ごしたい、リスクは取りたくない」と本音では思っている経営者が、「新規分野への進出を積極的に行う」方針を打ち出したとします。社員は、半信半疑でそれを進めようとするわけですが、このような経営者は容易にその計画を認めません。なぜなら、本心では「リスクをとりたくない」と思っているからです。

そのため、そうした計画のマイナス面を指摘して待ったをかけます。あるいは、経営者を守るマインドガード役の幹部がその内容を否定する行動に出ることもあります。

ある計画に対して、そのリスクや欠点を指摘することはきわめて容易ですし、コンセンサス型の意思決定スタイルをとることの多い日本企業では、欠点を指摘すれば計画は簡単に止まります。

いずれにしても、社員からすると、2つの矛盾した命令を受けるダブルバインド(二重拘束)状態となります。このような状態に陥ると、社員の行動へのモチベーションは極端に低下し、「消極的な社員」にならざるをえません。そして、経営者の本心を体感することになります。

ダブルバインド状態をつくるマネジメントは、消極的な社員を量産する可能性がありますが、そこで経営者が「わが社の社員は消極的である」と嘆くのはよくある光景です。

経営上で起こる多くの問題は、その要因をたどっていくと経営者に行き着きます。経営者は、社員に対して絶大な影響力を持つ自身の言動について、思うままに行うのではなく、期待する効果を考えて意識的に行うこと、できればあらかじめスクリプト(台本)を作成するくらい意識的に行うことが求められます。

以上