「経営人事改革の視点」 2017年8月号 社員はなぜ期待に応えられないのか?

期待値が明確になっていない

会社で働く人間であれば、誰でも成果をあげたい、期待に応えたいと思うものです。ところが、経営者や上司の期待に応えるような結果を出したり、行動を取ったりできる社員は必ずしも多くないのが現実です。

これは、社員が怠慢だからでしょうか? あるいは、能力が足りないからでしょうか?

そうしたケースもありましょう。しかし、そうではなく、そもそも経営者や上司の期待値が社員に的確に伝わっておらず、そのために成果があがらないということも多いのです。そんなはずはないと思われるかもしれませんが、それが現実です。

意思を的確に他人に伝えることは、とても難しいことです。第一に、内容を伝えること自体が困難です。伝える側は、自分にとってはわかりきったことなので、当然相手もわかるだろうという気持ちを抱きがちですが、そこから食い違いが発生することも少なくありません。

「伝える」ということと、「言う」ということはまったく違います。相手の立場に身をおいてみて、どのようにしたら本当に伝わるだろうかということを良く考えなければうまくいきません。そして、期待するところを正確に伝えるだけでなく、何のためにそれが必要なのか、それによって会社全体としてどんな利益が獲得できるのかといった背景や目的、その重要性を含めて伝えていく必要があります。そうしたことは、伝える側としては当たり前のことであっても、受け取る側はそうではないことが多いので、努力して伝えなければ伝わりません。

具体的な行動指示を行う場合も、考え方は同じです。どうしてその行動が求められるのか、その行動の先にある「あるべき姿」はどのようなものかを説明すること、つまり目的やビジョンを共有することこそが正しい行動への起点となります。

社員の力の発揮を邪魔している

経営者は、自分の体を動かすように、思いどおりに社員を動かそうとしてしまいがちです。社員は、感情と独自の行動原理を持った一個の存在です。細かいことまで指示しコントロールしようとする「マイクロマネジメント」は、会社が必要とする社員の自律的な思考や行動を妨げるものとなります。

他者に自律的な行動を取ってもらいたいと思うのならそれなりの工夫が必要で、それは簡単なことではありません。もちろん、雇用関係にある社員が経営者に指示されれば、言われたことはやるでしょう。しかし目指すところは、社員に自律的、総合的に力を発揮してもらい、その結果として成長を促すことにあります。

社員の自律的な行動を実現するためは、目的やビジョンの共有から始める必要があるのです。それを示してないとすれば、「とにかく言われたとおりに行動しろ」という状態になってしまいます。

もう一つのポイントがあります。それは、社員の行動に対して一定の自由度を保証し、社員の心理的安全を確保することです。マイクロマネジメントは、この自由度を阻害する行為となります。

自由度といっても、もちろん企業ですからすべての行動が許されるわけではありません。実現すべきは、ルールや最低限達成すべき成果などの範囲を明確にし、その範囲であれば、行動の自由が保証されるという状態です。この範囲を示す境界線、ルールは、組織の掟(おきて)と呼ぶこともできます。

期待値をわかりやすく示し、その目的やビジョンもあわせて共有すること、これは動作指示ではなく、社員の意思や思考能力に働きかける行為です。そして、組織としての掟・境界線を明確にして、その範囲であれば発想や行動の自由を保証すること、これはルールの範囲内で他者を尊重する行為です。業務マニュアルが悪いわけではありません。マニュアルはあらかじめ示されていれば、細かいものであっても、マイクロマネジメントではなく共有されたルールとなります。

自ら考え、自律的に行動し、人間としての総合力を発揮する社員が企業の成長を支えます。指示待ち社員の集団では、企業は存続できませんが、社員はもともとそのようになりたいわけではありません。経営者が時間をかけてそうした集団を作り上げてきたと考えるべきです。

経営者は、社員に対して自然人として振る舞うのではなく、方針・戦略の実践者として体系的に働きかけていくことが求められます。

以上