「経営人事改革の視点」 2019年5月号 社員の積極的な行動を引き出すには

◆根深い日本人の消極的なマインド

人間には、多少のリスクは気にせず楽観的に行動する積極的なタイプと、不安傾向が強く慎重な行動を選ぶ消極的なタイプの2つがあります。

その2つのタイプを分けるのに、その人が持つ「セロトニントランスポーター」と呼ばれる物質の量が大きく影響するということが知られています。そして、それはその人の遺伝子タイプによって決まるとのことです。

調査によると、現代の日本人は消極的タイプの遺伝子保有者の割合が約7割を占め、調査対象となった諸外国の例と比べてその割合が圧倒的に大きいという結果が出ています。これは厳然たる事実です。

消極的タイプの人材は、集団的な規律にそって行動することは得意なため、規格大量生産型の時代には適応していました。しかし、そうした人材はリスクを取る行動や革新的な行動は起こしにくいので、変化の激しい現在の環境下では、人材不適合に陥りやすいといえます。

リスクを取らない消極的な傾向は、若者により濃く見て取れます。

若者がよく使う言葉に、「コスパ(コスト・パフォーマンス)」というものがあります。これは自身の投資(お金の支出や行動の程度)とそれに対する効果(便益性や満足度)の割合を示す概念で、それを都度判断して行動を決めていくわけです。

そのこと自体は非常に合理的なものではありますが、世の中には先を見通せないことも多くあります。行動においてエネルギーロスを恐れ、あるいは少しでもリスクを取りたくないという姿勢からは、大きな価値は生み出されません。

ゲーム理論における協調と裏切りの駆け引きを長期にわたり行うシミュレーション(囚人ゲーム)では、最初は必ず協調の態度を取り、その後は相手の態度に合わせて協調か裏切りを機械的に選択する戦略(しっぺ返し戦略)がもっとも勝率が高いことが知られています。つまり、シビアな競争環境にあっても、最初はリスクを取ってポジティブに行動することが、成功確率を上げるのです。

 

◆経営トップの役割

日本人の約7割が消極的タイプの遺伝子を保有しているという事実は、非常に重い内容です。消極的な集団では、現在の競争環境での生き残りに不利な状況を招きます。

この状況を変えるには、ボトムアップでは無理で、トップ自らが社員に働きかけ、積極的な行動を引き出していく必要があります。その際、振り子をよほど強く反対側に振らなければ、現状を変えることはできないと考えるべきです。

トップの陥りやすい傾向として、ダブルバインド・マネジメントがあげられます。失敗を恐れず、思い切って取り組めと指示しながら、一方で細かい点をいろいろと拘束するようなスタイルです。社員は身動きが取れませんが、こうした場合、細かい点に焦点を合わさざるをえず、結局のところ、「失敗を恐れない思い切った取り組み」など実現しようがないのです。「思い切り体を動かしなさい。ただし、手足を伸ばしてはいけません」といったトップマネジメント・スタイルは、世の中に実に多いのです。

経営トップが気にするさまざまなポイントについて、特定の幹部社員がそのチェックを自ら引き受ける場合があります。トップが気にする本来は必要のない細かい点について目を光らせ、トップの意向に沿うように働きかけるのです。こうした存在は“マインドガード”と呼ばれることがあります。

このような働きも、社員の伸び伸びとした活動を阻害する要因になりますので、経営トップは注意深く動きを封じる必要があります。

持って生まれた遺伝子によって、消極性を持つ人でも、積極的な行動によって成功体験を積んだり、積極的な行動を取る組織メンバーの影響を受けたりすることで、積極性を持つようになる余地は十分にあります。

経営トップがそのような方向性を目指し、自らの言動や自らに代わって影響を及ぼす経営幹部の行動に注意深く対処し、本気になって組織に働きかけていけば、そのあり方を変えることは可能なのです。