「経営人事改革の視点」 正義を求めることが成功の確率を上げる

◆不当な顧客に対する対応

企業経営においては、悩ましい意思決定を迫られることが少なくありません。

通常の対応以上を要求してくるわがままな顧客に対して、どのように対処していけばいいか。上得意企業の幹部から自社の社員がハラスメントを受けたら、どのように対応すべきか。度を超したクレーマー顧客に対して、断固たる態度をとるべきか。

このような状況はどの企業でも起こり得るものですが、どのような対応を取るか難しい意思決定となります。それは、対応次第によっては顧客を失うことになるからです。

得意先を失えば、売上減が現実となります。その直接的な影響への恐れがあるのは当然ですが、もう一つは日本企業の持つメンタリティによるものです。顧客第一主義を経営理念に掲げる企業は多く、顧客を失う意思決定は、理念に反するような気がしてどうしても及び腰になってしまうのです。しかし、そうした逡巡が非効率な運営をもたらして社員を疲弊させ、結果として他の顧客の利益を損ねることにもつながっていくのです。

考え方として、「不良顧客」とは毅然として決別すべきです。その理由の一つに、費用対効果の問題があります。現実に、そのような顧客は総合的に見て、収益面においてもペイしていないケースが多いのです。潜在顧客は数多くいるはずであり、無駄な労力を省いて、新たな顧客の獲得に向かうべきです。もし、潜在顧客が乏しいとしたら、それはビジネスモデルに問題があるわけで、根本的にその枠組みを見直さなければなりません。

実際に「不良顧客」を排除することで、短期的なダメージはあるにしても、中長期的には成長につながることが少なくないのです。

有名な例では、かつて三越を主要取引先としたヤマト運輸が、その横暴さに堪えきれずに契約解除に踏み切った話は非常に有名です。同社はその後、業態を変え、日本に物流革命をもたらしました。

身近なところでも、主体的な判断で、顧客からの理不尽な要求を断ったり、場合によって顧客と決別したりする企業が、それを契機として成長の度合いを強める例を見てきました。

◆なぜ正義が繁栄をもたらすのか

何よりも、正義の観点が重要です。なぜなら、そもそも「正義」は社会的にも、そして人間としても合意や納得ができる道理だからです。中長期的には、合意や納得を得にくいものは広がっていきません。あるいは、無理をして広げていっても、限界に至ったところで破綻を迎えることになります。

なぜかそういうことが起きるかというと、そもそも商取引は対等のものであり、そのバランスを大きく失った取り引きには持続性がないからです。

また、人間は不合理なこと、理不尽なことを嫌う特性を持ち、そうしたことがはびこる組織で社員は力を発揮することが難しいという事情もあります。

それは、進化の長い歴史において備わった一種の道徳性によるものであると考えられています。実は、そうした特性は人間に限らず備わっているようで、人間に最も近い種であるチンパンジーやボノボなどの類人猿も、人間と同様に集団を形成して生きていますが、他者への思いやりとコミュニティ(集団)への気遣いという「道徳性」と言える特性を有していることが、研究の結果明らかになっています。これは、人間が類人猿との共通祖先から枝分かれする前から道徳性を有していたということになるので、非常に興味深いことです。

いずれにしても、対顧客にしても組織運営においても、理不尽なこと、不合理・不公正なことが蔓延した場合、組織は疲弊します。特に、規模の小さな企業の場合、その影響が他の要素で希釈しにくいため、影響は甚大になります。

勇気を持って、自社なりの正義を求める意思決定を行うことが、最も成功確率を上げ、中長期的な繁栄につながる方策であると考えられます。                 以上