「経営人事改革の視点」 2019年2月号 情動に働きかけなければ行動は変わらない

◆人間の心の構造

すべての生物は、進化の結果いまの姿に至っています。

人間も例外ではありません。肉体はもちろんのこと、「心」も進化の結果が現在の状態であるということに留意する必要があります。心は脳はたらきによって生まれます。人間の脳は、中枢から次のような3層構造になっており、外側にいくにしたがって、高度な機能を果たすようになります。

 

爬虫類脳→自律神経など生命維持に必要な機能

旧哺乳類脳→情動(好き、嫌悪、愛情、怒り、恐れ、不安、嫉妬など)

新哺乳類脳→論理的・分析的な思考

 

脳の進化は、全体としてバージョンアップしていくという形ではなく、旧式の脳の上に新しく進化した部分が付け加わっていくという道筋をたどり、多層的な現在の姿になりました。そのため、下等動物にもある条件反射、チンパンジーなどと大差ない情動、人間ならではの論理的な思考が併存しているのです。ここで、行動の原動力は論理的思考ではなく情動つまり旧哺乳類脳の働きであるということが重要なポイントです。

外敵に出会ったときに、「逃げろ」か「飛びかかれ」を一瞬で決めるのは情動です。

一瞬で行うわけにはいかない意思決定においても、情動が重要な役割を果たします。人間は論理的な思考は働かせるものの、一方で意思決定の結果を予想して「そうなった時に自分はどのような感情を持つだろうか?」という心の動き、つまり情動が生まれます。その情動が決断という行動に影響を与えるのです。

 

◆情動への働きかけ

企業活動とは経営者・社員の行動の総計であり、マネジメントの課題は、社員の行動をあるべきものに近づけていくことです。行動を変えるにはその原動力である情動への働きかけが欠かせませんが、それを行うために必要な上司の部下に対する基本姿勢があります。それは、トータルな人間として部下に向き合うことです。向き合うというのは、精神面だけでなく文字通り物理的に向き合うことを含んでいます。そして、コミュニケーションをとることです。

コミュニケーションは、必ずしも内容がなくてもかまいません。言葉を交わし、お互いの存在を頻度高く認識できることが重要です。それがあってはじめて、情動への働きかけが可能になります。

情動への働きかけの次の一歩は、部下に対してきちんと期待感を示すことです。人間関係が成立している場合、期待をかけられることはうれしいことなので、返報性の本能を持つ人間はその期待に対して応えようとします。達成確率が50%程度までは、期待が高まるほどに何とかそれを達成しようとするモチベーションが高まると言われています。加えて、その期待の具体的内容について上司と部下が腹落ちし、共感することも必要です。

目標管理制度を例にとりましょう。当然、企業にとって重要な指標を目標に設定するわけですが、人間関係と上司よりの期待感があって価値ある目標を設定すれば、社員の目標達成行動が自動的にとられるというわけではありません。

目標を「腹落ち」させなければならないのです。特に重要なのは、目標の達成イメージを体感できるようにすることです。たとえば、新規分野の顧客開拓が目標であれば、過去の成功体験を引いて「1年前に◯◯会社にアプローチしてうまくいった時のあのやり方で攻めていこう!」といった具合です。

目標の共有が情動レベルで行えたら、上司は次のステップで行動の見守り、激励、フォロー、必要な介入などを行っていくことになりますが、ここでも目標設定と同様、情動に働きかけていくことがポイントになります。

トータルな人間としてきちんと向き合い、そして情動に働きかけていくこと、それがマネジメントにおいても求められるのです。