「経営人事改革の視点」 2016年5月号 従来型雇用形態の改革

従来型雇用形態の限界

日本の雇用制度は、さまざまな点において行き詰まっています。

日本を代表する雇用形態は、その組織に所属しメンバーの一員となることに価値を見出すというもので、「メンバーシップ型雇用形態」とも呼ばれています。その中で正社員と呼ばれる従業員は、多くの場合ゼネラリストとして入社し、職務内容や勤務地は会社に白紙委任します。労働時間や労働日についても同様で、残業や休日出勤への対応を無制限で会社に明け渡すことがめずらしくありません。こうした状況をもって、全人格的な帰属と呼ぶこともあります。

しかしさすがに、こうした状況に違和感を持つ社員が増えてきました。特に若手社員においてそうした傾向が強いといわれています。

こうした雇用に違和感を持ったとしても、いったん正社員から離れると、次に安定的な職に就くのが難しいという認識があり、消極的な理由から会社に留まるケースが多いのですが、最近では状況が変わりつつあります。人材不足も進展し、企業もキャリア採用に積極的に取り組むようになったこと、人材紹介などのマッチングビジネスが充実してきたことなどがその理由です。

企業として必要なことは、「所属」や「定年までの雇用」に代わる価値観を提供することです。例えば、社会の中の存在意義、ミッション、将来に向けてのビジョン、株式上場など成長の可能性、そして社員に求める能力や行動とそれに対応したキャリアパス、報酬のあり方などです。

さまざまな制約条件への対応

さまざまな制約条件への対応も、従来型雇用の改革につながります。転勤をしないことを前提とした雇用契約、育児・介護を前提とした短時間勤務、がんや糖尿病などの病気治療を行いながらの勤務などへの対応です。

かつては、制約条件を持った社員は、パートタイマーなどの非正規雇用で働かざるを得ないことが多かったわけですが、長期雇用つまり正社員としてのステータスを維持しながら、働くケースが増えています。企業としても、制約条件があっても有能な人材をその条件の中で使う方が得策だからです。少子化に伴う労働者不足の中で、妊娠・出産という役割を果たす女性社員の活用を含めて、さまざまな制約条件を持つ社員の労働条件の合理的な設定が、重要な課題となっています。

制約条件を持った社員の労働条件の設定には、業務がある程度標準化されていることが求められます。全員がフルタイムで残業もいとわないという前提であれば、属人的な業務遂行方法でも何とか回っていく可能性はありますが、労働時間や出勤日が不均一な社員による集団で業務をこなそうとすると、ある程度の標準化を行わなければ業務は遂行できません。

そして、業務の標準化とともに、それを遂行する社員への報酬についても、わかりやすく体系化していく必要があります。基本は、果たす役割・機能、そして成果によって適切に報酬が決まるシステムであり、制約条件を持った社員に対しては、きめ細かい労働条件を設定しそれに対する正当な報酬を設定しなければなりません。

人材不足の時代にあって、企業は社員により選ばれる立場にあります。企業理念や社会の中で果たす役割への共感を出発点とし、能力や成果、そして制約条件に応じた報酬を実現するというテーマは、現代企業の共通の課題です。国際的に見た日本の企業の労働生産性の低さが問題となっていますが、これらの課題への取り組みは、企業の労働生産性向上にもつながると期待されます。

以上