「経営人事改革の視点」 2016年7月号 定年後再雇用の同一労働同一賃金

賃金引き下げが違法との判決

本年5月、東京地裁から「定年後再雇用と賃金」についての驚くべき判決が出ました。裁判は、3人の労働者(トラックドライバー)が在職のまま会社を訴えたもので、「職務内容が定年前と変わらないにもかかわらず、会社(運送会社)が賃金を約3割引き下げたことは不合理である」という内容です。判決では、再雇用者の賃金を下げる運送会社の社内規定について、「正社員と非正社員の不合理な待遇の違いを禁じた労働契約法20条に違反する」と判断し、労働者の訴えをほぼそのまま認めて、会社に賃金の差額の支払いを命じました。

この判決がなぜ「驚くべき」かと言いますと、定年後の再雇用に当たっては、3〜4割程度の賃金の引き下げを行っているケースが一般的だからです。その際、職務内容が変わることもありますが、職務はそのままのケースも少なくありません。

判決後、会社側はすぐに控訴したため、裁判における最終的な結論がどのようになるかは現時点ではわかりませんが、仮にこの判決(=労働者側の勝訴)が高裁・最高裁で維持された場合、定年後再雇用者の賃金引下げは認められなくなるケースが出てくる可能性があり、企業実務への影響は非常に大きなものとなります。

同一労働同一賃金の動き

世の中の動きは、基本的に「同一労働同一賃金」に向かっています。 昨年の通常国会で「同一労働同一賃金推進法」が成立・公布されましたが、この法律には、以下の内容が盛り込まれています。

  1. 正規労働者と非正規労働者の待遇の相違が不合理なものにならないようにするために、必要な施策を講じる。
  2. 派遣労働者の待遇が派遣先の労働者と責任の程度等に応じて均等なものになるよう、3年以内に法制上の措置を含む必要な措置を講じる。

この法律は、基本的な方向性を定めたもので、実効性のある内容にするにはパートタイム労働法の改定や新法の制定が必要と考えられますが、安倍首相は「必要であれば法律を作る」と発言するなど法制化に強い意欲を示しているようです。

現在のパートタイム労働法は、職務内容や責任の重さに著しい差がないことに加え、転勤や配置転換の有無、異動範囲など、「人材の活用」が同程度である非正規労働者に対して、正社員と賃金に差を付けない均等待遇を求めています。また、契約社員などは基本的にはパートタイム労働法の適用を受けません。このような点が、法律上幅広く同一労働同一賃金が適用されることの障害になっていると考えられています。政府がこうした点を含めて、同一労働同一賃金を実現しようとしているかどうかは、今のところ不明です。

同一労働同一賃金実現は簡単ではない

男女間の賃金格差についてはある程度改善しつつあるとみることもできますが、一番大きいのが、正規労働者と非正規労働者の格差です。

非正規労働者は、日本全体で実に就労者の4割近くを占めています。本当の意味で同一労働同一賃金を実現しようとすると、4割の労働者の賃金を一方的に上げるということでは多くの企業が立ちゆかなくなるため、正規労働者の賃金を一部引き下げなければならないという事態が生じます

これは非常に難しい問題ですが、世の中の流れとしてはこの方向に行くことが予想されます。その際、重要なことは、何をもって同一労働とするかということです。同一労働を規定するために、職務の価値、あるいは役割の価値を企業において定義づけなければなりません。この点が非常にあいまいだったのが、日本型雇用の特徴でした。しかし昨今では、正規労働者であっても何らかの基準がなければ処遇に対して納得しない社員が増えてきました。

今後は、職務の価値、役割の価値というもののランクづけと、それに対応した賃金の設定というものが避けて通れないと考えられます。

以上