「経営人事改革の視点」 2017年9月号 企業における「社員の成長」の意味

「働くこと」と人間の成長

人間の成長は、その時代における社会構造によってあり様が変わります。そして、どの時代でも、人間は生きていくための生業(なりわい)を通じて、つまり働くことを通じて成長していくという成長の代表的な道筋がありました。

狩猟や農耕で社会が成り立っていた時代では、人間の成長は、狩猟や農耕の分野でさまざまな事を覚え、「一人前」となることが最初の大きなステップでした。その後、集団の中で抜きんでた技術を習得したり、リーダーシップを身につけたりしていくことが次の成長段階だったと想像されます。

では、今の社会で、働くことを通じた人間の成長とははどのようなものでしょうか?

現在の日本では、労働力人口(15歳以上で働く意思と能力を有する人の数)は約6800万人、そのうち、雇用されて働く人(雇用者)が約5900万人で、労働力人口の大部分を占めます。雇用者には公務員等も含まれますが、圧倒的多数は企業に雇用されており、「企業で雇用されて働く」というのが、現代における「働くこと」の典型的な姿です。

かつて、狩猟や農耕を行う中で成長してきたと同じように、企業の中で一人前になり、成長していくのが、現代社会における人間の成長の代表的なスタイルといっても過言ではありません。もちろん、企業で働くことによって実現する成長が、人間の成長のすべてではありませんが、重要な部分を構成することは間違いありません。

企業において社員が成長することは、企業と社員双方にとって非常に有益なのは当然ですが、それだけでなく、マクロ的に見れば、企業における社員の成長の総和が、現代人の成長の総和の大きな割合を占めると捉えることもできます。つまり、企業における社員の成長は社会にとっても非常に有益なもので、それが社会の活力の源にもなると考えられます。

人材育成の基本

成長とは、さまざまな能力を伸張させていくことですが、企業において身につけていく能力には、業種・職種によって異なる知識・技能などの専門的な能力と、業種・職種横断的な基幹的能力があります。

基幹的能力には、リーダーシップやコミュニケーション能力、改善能力、PDCAサイクルにしたがって物事を計画的に進めていく能力などがあります。これらの能力は、業種・職種に関わらず役立つもので、ある企業で成果をあげることのできる人材が、別の企業でも成功するのは、こうした能力によるものです。

では、企業は社員の育成をどのように行っていけばいいのでしょうか。

基本的には、ビジネスを正しい方法で遂行していくことが育成の前提となります。正しい方法で農耕や狩猟を行わなければ、正しい能力が伝わらないのと同じです。その中で、上司が部下にきちんと向き合い、ある仕事をさせてみる、ある役割を担当させてみるということをしていけば、一定の能力は必ず身についていきます。

座学も必要です。特に専門能力については、教材も活用して体系的に教えていかないと、それらを習得するのに長い時間を要してしまいます。

基幹的な能力についても、系統だったカリキュラムは有効ですが、それらは勉強だけで身につくものではありません。実体験が欠かせないのです。

ビジネスを遂行していくことがどのようなことなのかを実地で体感し、それを進めていくにあたっての重圧や緊張感そして達成することで得られる充実感を味わうこと、そうした経験を繰り返すことで、仕事のスタイルというものを身につけていくのです。それは、狩のスタイルを身につけることと同じです。

特に、社会人になりたての頃に身につける仕事のスタイルは重要で、後々まで影響を残すことになります。企業は、新人には良い上司を選んで、入社初期段階で体験させる仕事についても意図的でなければなりません。

さて、中小企業は、経営資源において大企業には遠く及びませんが、人材育成の点では優位な場所に立てる可能性があります。失敗を恐れず、新人に仕事を任せてみることが大企業よりもやりやすい面があるからです。また、大企業においては、多くの社員がビジネスプロセスのごく一部にしか関われないことが多いのですが、中小企業では業務の広い範囲を担当させ、ビジネス全体について体感を得させていくことが可能です。中小企業は、人材育成の点で大企業に勝てる可能性があるのです。

正しい方法でビジネスを行い、上司が部下にきちんと向き合って、見守りながら仕事をさせていけば部下は必ず成長します。これは、世の中で昔から行われてきた真実であり、経営者はこのことに自信を持っていただきたいと思います。

以上