「経営人事改革の視点」 2019年4月号 ノルマと期待値の違い

◆期待値はノルマとどう違うか

ノルマとは、強制的に与えられる仕事量のことで、社会主義時代のソ連から戦後日本に伝わった概念といわれています。ノルマという言葉を使わない場合でも、社員に対して事実上のノルマとして目標が設定されることは少なくありません。

上から下への一方的な命令で仕事が着実に遂行されていけば、そもそもソ連崩壊はなかったでしょう。人間は、そう簡単に会社や上司の思いどおりになるものではありません。ノルマ方式は基本的にうまくいかないことが歴史的にも証明されているのです。

目標管理やそれを含んだ人事評価制度を導入しても思うような結果が出ない会社が多いのは、目標が実質的にノルマになっているからです。

では、目標となる仕事量や成果を設定しなくていいかというと、それでは未来に向けて事業を進めていくことができません。自走能力を持つ社員ばかりの会社であれば、それでも成果が生み出されていく可能性はあります。しかし、それはきわめて稀な幸運であって、確率を求める必要のあるビジネスの世界では、その手法を中心に据えることはできません。

ノルマに代わるものは何かといえば、それは期待値です。期待値は、もちろん仕事量の概念を含んだもので、外形的にはノルマと変わらないように見えますが、その組み立てが根本的に違うのです。

 

◆期待値を構成するもの

ノルマが一方的な目標・義務の提示であるのに対して、期待は合意形成の努力を伴うものです。合意形成を目指す以上、目標のレベルやそれを達成する方法論に対する一定の合理性がなければならず、その前提として、部下の能力や置かれた状況の把握が必要なことはいうまでもありません。

そうした状況にある場合、期待値としての目標レベルは、実はノルマよりも高く設定できる可能性があるのです。その理由は、人間は期待に応えたいと思う本能を有するからです。

期待を掛けられるということは、自分が認められているということであり、それは相手の好意と解釈することができます。人間は良くしてもらったことに対して、同じ内容で返したいと思う「返報性」を有します。これは進化の結果そなわった本能です。

そのため、期待が大きければそれだけ目標達成に向けたモチベーションが上がります。しかし、あまりに期待が大きいと、自分にはできないと判断し諦めてしまいます。一般に、達成確率50%までであれば、期待が大きくなればなるほどモチベーションが高まるといわれています。

合意形成の前提として、上司の部下に対する能力・状況把握が必要と書きましたが、実はこれは最低限の条件です。本当に求められるのは、上司と部下の相互理解と信頼関係の構築です。それにより、ストレスなく言葉を交わし、議論することができるようになります。つまり、意思疎通の基盤が形成されるのです。

人間が変化する環境の中で力を発揮するためには、手足がのびのびと伸ばせる状況が必要です。萎縮した心と手足では、達成できることは限られてしまいます。

そして、ストレスなく言葉を交わすことができる基盤を作るには、日頃のコミュニケーションが欠かせません。ポイントは、上司の側からのポジティブな声掛け、働きかけ、あるいは上司から部下への自己開示です。自己開示は特に重要です。人間は自分が心を開いた分だけ、相手も心を開いてくれるのです。これも返報性の本能によるものです。

上司が部下に対して、あいさつやコミュニケーションを求めるのでは、立場上部下はそうするのでしょうが、本当に形だけのものになってしまいます。部下に実績をあげてほしいのなら、そこの労力・コストは上司の側が負担するしかないのです。

コミュニケーションの基盤が形成され、信頼関係が構築できた場合、期待値として示された目標やその達成ストーリーに対する共感が生まれますが、それによって、目標が達成される可能性は高まります。そして、その過程を通じて能力の向上が実感され、モチベーションがさらに高まるという好循環も期待できるのです。